荷ほどきもそこそこに、手元のスマホから選んだTom Mischのチルな音楽をスピーカーから流し、大きなソファに腰を深く沈めると、心も体も一気に緩んでいく。

開け放たれた窓の向こうは水平線が広がっている。ふと視線を部屋の中に移すと、ダイニングの奥にはコンパクトながら機能的で動きやすく、木目とステンレスが織りなすデザインが美しいキッチンが見える。初めてここを訪れた時、このキッチンで料理を作る時間さえ、特別なものになりそうだと直感的に感じたのを思い出す。

水着に着替えた子どもたちが寝室から戻ってきたら、みんなでテラスへ出る。

ウッドデッキにはジャグジー、その先にはプールが伸びるように設えられている。そのプールの端に立つと、そのまま海に行けそうな錯覚に陥るほど、海を近くに感じる。そんな情景を理屈ではなく感覚的に感じ取っているのだろう、子どもたちは歓声を上げながら、次々と水の中に飛び込んでいった。

私はジャグジーに腰掛け、ただ海と空が溶け合う場所を見つめる。心地よい風が肌をなで、遠くで海鳥の声が聞こえる。何もしていないのに、心が満たされていく。

日が落ちる前に車を走らせ、まずは最高のコーヒー豆を調達するために山を登ってROLLING ROASTERSに行き、魚久で目移りしながら新鮮な魚介を入手してクーラーボックスに詰める。それから熱海駅の反対側まで足を伸ばし、石和酒店でフレッシュなスパークリングワインや脂の乗った魚に合う赤ワインや地酒などを選んでもらってから、斜め向かいの杉本鰹節商店で削りたての鰹節を入手。その後、2軒ほどお店を回り、生鮮食品をいろいろ買い込んで戻ってきた。

キッチンに並べた魚は、ついさっきまで海を泳いでいたかのようにキラキラと輝いている。火を起こしてテラスのグリルに下味をつけた魚を並べると、炙られたバターとレモンの香りが立ち上る。乾杯したグラスの底から立ち上がるひと筋の泡越しに見る夕焼けは、刻一刻と色を変えながら、私たちの記憶に残るであろう記念するディナーに彩りを添えてくれた。

BBQの後は、家族でリビングに戻り、みんなでくつろいだ後は、めいめい散らばる。妻は今頃、半露天風呂の湯船に身を沈めながら、潮騒をBGMに星の瞬きを眺めつつ、体の奥からじわじわと疲れがほどけていっていることだろう。子どもたちは、小上がりにポップコーンとコーラを持ち込んで映画を見始め、完全に夜更かしを決め込んでいるが、「最高の夏休みが始まったね〜」なんて声も聞こえてくる。自分はリビングに残り、グラスを傾けながら、この幸せの余韻に浸っていよう。